はじめに
賃借人の家賃滞納が続き、解消される見込みもない場合、最終的には賃貸借契約を解除して建物の明渡しを求めることが考えられます 。
今回は、建物明渡しまでの基本的な流れをご説明したいと思います 。
建物明渡しまでの流れ
家賃滞納による建物明渡しの手続きは、主に以下の3つのステップで進みます 。
- 契約解除
- 交渉・訴訟
- 強制執行
1. 契約解除
賃貸借契約の解除が認められるためには、賃貸人と賃借人との信頼関係が破壊されたと言える程度の家賃滞納が必要です 。一般的には、3ヶ月程度の滞納があれば解除が認められる傾向にあります 。
通常、いきなり契約を解除するのではなく、まず賃借人に最後の機会を与えるために、滞納家賃の支払いを催告します 。それでも支払いがない場合に契約解除となります 。この「催告」や「解除」の通知は、後のトラブルを避けるためにも
内容証明郵便で送付するのが一般的です。
なお、催告を受けた賃借人が滞納分を支払った場合は、契約解除が認められないこともあります。
2. 交渉・訴訟
契約解除の通知後、まずは賃借人に対し、任意の明渡しを求めて話し合いを持ちかけます。 具体的には、以下のような内容について話し合うことがあります。
- 明渡しの期限
- 滞納家賃の支払方法
- 転居先の確保や引越費用の負担など
話し合いがまとまったら「明渡合意書」を取り交わし、期限までに明渡しを実行してもらいます 。荷物の搬出が終わり、建物内の状況を確認して鍵の引渡しを受ければ、明渡しは完了です 。
しかし、賃借人がすぐに明渡しに応じないことも少なくありません 。その場合、
明渡訴訟を提起する必要があります 。特に争いのないケースでも、判決が出るまでには3ヶ月~半年程度かかるのが実情です 。ただし、訴訟の途中でも賃借人が自主的に明渡しに応じることで、「和解」によって早期解決が図れることもあります 。
3. 強制執行
裁判で明渡しを命じる判決が出てもなお相手が応じない場合は、裁判所を通した
強制執行の手続きが必要です 。
まず、執行官が賃借人に対し、1ヶ月程度の期限を定めて明渡しを求める「催告」を行います 。それでも応じない場合は、最終手段として「明渡しの断行」を実施します 。断行日には、搬出業者が建物内の物品をすべて運び出し、鍵を交換することで強制的に明渡しを完了させます 。
運び出された物品は別の場所で保管され、後日売却されることもありますが、無価値なことがほとんどです 。そのため、売却代金を滞納家賃の支払いに充てることは期待できません 。また、物品の搬出や鍵交換の費用も、結局は賃貸人が負担せざるを得ないケースが多くあります 。
まとめ
家賃滞納で最終的に強制執行まで進むケースは、さほど多くありません 。しかし、賃借人にとっては契約解除から強制執行までの数ヶ月から1年近く、建物に居座ることができてしまいます 。その間の家賃相当額(損害金)の回収も期待できないのが実情です 。
このようなリスクを避けるためにも、賃貸人としては、できる限り話し合いによって早期に明渡しを実現したいところです 。
今回は建物明渡しのごく基本的な流れをご説明しましたが、実際の現場では様々な問題が生じ、スムーズに進まないことも少なくありません 。次回は、実際に問題が生じたケースやその対処法などをご紹介したいと思います 。
■執筆者・プロフィール
戸門 大祐(とかど・だいすけ)戸門法律事務所 代表弁護士
2002年 明治大学法学部卒業
2004年 明治大学大学院 法学研究科修了
2006年 明治大学法科大学院修了
2007年 司法研修所修了(第60期)、弁護士登録(小宮法律事務所)
2014年 戸門法律事務所開設
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