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相続登記の義務化(2024年施行予定)による
相続手続きに関する5つの変更点

相続登記の義務化(2024年施行予定)による相続手続きに関する5つの変更点

2021/11/17

相続登記の義務化が2021年4月21日に法案として可決されました。
3年後の2024年4月までに施行が予定されています。
主な目的として所有者不明土地の解消です。
ここでは、相続登記の義務化による相続手続きに関する5つの変更点について解説します。

 

相続登記義務化の理由は所有者不明土地を解消するため

相続登記義務化が施行される理由として、所有者不明土地の解消があげられます。
所有者不明土地とは、文字通り「持ち主がわからない(不明な)土地」ということです。

所有者不明土地の定義は次のとおり。

1.不動産登記簿謄本(登記事項証明書)にて所有者が誰なのか?が明確でない土地
2.登記簿から土地の所有者がわかったとしても、音信不通などの理由で連絡が取れない土地

所有者不明土地は全体の20.1%、合計の広さは九州を上回る約410万ha

国土交通省が2018年に発表した資料によりますと、所有者不明土地は全体の20.1%、合計の広さは九州を上回る約410万haです。

2016年度地籍調査における土地所有者等に関する調査

  筆数および割合
調査対象筆数(全体) 622,608
登記簿にて所在確認できたもの 497,549(79.9%)
登記簿にて所在確認できなかったもの 125,059(20.1%)
所在不明(最終的に) 2,526(0.41%)
筆界未定
※境界が確認できずに未定のまま処理された土地
10,140(1.6%)

 

登記簿にて所在確認できなかったものの理由

  筆数および割合
所有権移転登記がされていない(相続) 622,608
所有権移転登記がされていない(売買や交換) 497,549(79.9%)
住所変更がされていない 125,059(20.1%)

※「登記簿にて所在確認できなかったもの」筆数125,059に対する割合です

所有権移転登記がされていない(相続)が66.7%、住所変更がされていないが32.4%と、所在確認ができない理由がいずれかに該当することがわかります。

 

所有者不明土地の増加予想

年度 筆数および割合
2016年 410万ha(ヘクタール)
2020年 460万ha(+50万ha)
2025年 520万ha(+60万ha)
2030年 584万ha(+64万ha)

2035年

651万ha(+67万ha)
2040年 720万ha(+69万ha)

 

2016年の時点でおよそ410万haが所有者不明土地として発表されています。
九州地方の全面積がおよそ368万haです。
そのため、全体では九州よりも広い土地が所有者不明土地として扱われています。

このまま特に対策を講じなければ、2040年には所有者不明土地がおよそ720万haに増加する可能性も。
北海道の全面積およそ780万haに近づくかもしれません。

 

参考資料
国土交通省 平成30年版「土地白書」
「所有者不明土地問題を取り巻く国民の意識と対応」
https://www.mlit.go.jp/statistics/file000006.html
https://www.mlit.go.jp/common/001238041.pdf

国土交通省「平成28年度地籍調査における土地所有等に関する調査」
「所有者不明土地の実態把握の状況について」
https://www.mlit.go.jp/common/001201304.pdf
 

所有者不明土地が増加することで起こり得る4つの問題点

所有者不明土地が増加した理由として、相続登記が義務化されていなかったことがあげられています。
所有者不明土地が増加することで以下の4つの問題点が起こり得るでしょう。

 1. 所有者を探す手間と費用
 2. 土地の放置
 3. 多数の相続人(共有)
 4. 土地活用の阻害

1. 所有者を探す手間と費用

所有者不明土地が開発事業や公共事業の予定地に含まれていた場合、所有者を探すための手間と費用が発生します。

・戸籍謄本や住民票の取得費用
・所有者の現住所への訪問(交通費、宿泊費)
・所有者移転登記の費用

仮に土地が相続人全員の共有となっていた場合、人数分の手間と費用がかかるということです。
膨大な時間が必要なことを覚悟しなければなりません。

2. 土地の放置

所有者不明土地は管理する人が存在しない確率が高いため、土地そのものが放置されることが考えられます。
土地の放置は特に不法投棄を招きやすく、廃棄物の処理の問題も発生するかもしれません。

3. 多数の相続人(共有)

所有者不明土地は、相続時に所有権移転登記がされていないケースが大半です。
※前述の資料では66.7%を占めています

そのため、土地が"共有"の扱いとなっていることから、多数の相続人が存在する可能性があります。

土地の売買はもちろんのこと、開発事業の際には、相続人全員の許可を得ることが必須です。
時間と費用については推して知るべしでしょう。

4. 土地活用の阻害

所有者不明土地は土地活用の阻害につながります。

  所有者不明土地が阻害する土地活用
国や自治体 ・公共工事
・開発事業
・災害対策事業
・復興支援事業
民間 ・土地の売買
・住宅などの建設

 

これらの土地活用の阻害の可能性から相続登記の義務化が議論され、法案の決定に結びついたのではないでしょうか。
 

相続登記の義務化による相続手続きに関する5つの変更点

相続登記の義務化によって、これまで任意であった相続時の所有権移転登記が、「必ず行わなければならないもの」(義務)へと変わります。
相続手続きに関係する変更点は次の5つの項目です。

・相続登記の期限(3年以内)
・遺産分割が完了していない際に認められる「相続人申告登記」(仮称)
・住所および氏名の変更登記の義務化(2年以内) ・法務局への情報提供(生年月日など)の義務化
・所有権を放棄した土地を国庫に返還できる

 

相続登記の期限(3年以内)

相続登記の期限は、以下の2つの開始日のうち「遅いほう」が適用されます。

①相続の開始や所有権を得たことを"知った"日より3年以内
②改正された法律の施行日から3年以内

①相続の開始や所有権を得たことを"知った"日より3年以内

相続登記の義務化の施行後に相続登記の期限のひとつとなるのは、次の2つに当てはまった日から数えて3年以内です。

・被相続人が亡くなったことを"知った"日
・相続した不動産の所有権を得たことを"知った"日

いずれも「知った日」というのがポイントとなります。
遺産分割による所有権の取得の場合には、遺産分割が決まった日から数えて3年以内です。

②改正された法律の施行日から3年以内

もうひとつの相続登記の期限は、改正された法律の施行日(2024年予定)から数えて3年以内です。

相続登記の期限内に所有権移転登記を済ませないと10万円以下の過料が科される

改正された法律の施行後、相続登記の期限内(3年以内)に所有権移転登記が完了していない場合には、10万円以下の過料が科される可能性があります。

1.相続登記が完了していない
2.法務局より相続人に相続登記を行うように催告
3.催告を受けた後、相続人が正当な理由がないにも関わらず未登記のまま放置
4.裁判所より相続人に対して過料10万円を納めるように通知される

法務局より催告を受けた時点で相続登記を済ませれば、10万円の過料が科されることはありません。

ちなみに過料は罰金などの刑罰ではなく行政罰です。
そのため、過料が科されても前科がつくということにはなりません。
交通違反の反則金(駐停車違反などの青切符)と同様です。

 

遺産分割が完了していない際に認められる「相続人申告登記」(仮称)

複数の相続人の間で遺産分割が完了していない際には、「相続人申告登記」(仮称)を申請することで、所有権移転登記を遅らせることも可能となります。
この方法を用いれば、3年以内の相続登記の義務化を暫定的にクリアすることにもつながるでしょう。

相続人申告登記(仮称)では、次の項目を申請することになります。

・登記されている名義人に対する相続の開始
・自身が登記されている名義人の相続人であること

相続人申告登記(仮称)が認められた後に、遺産分割が完了しましたら、遺産分割の決定日より3年以内に相続登記を行う必要があります。

 

住所および氏名の変更登記の義務化(2年以内)

改正された法律(相続の義務化)の施行後は、土地の所有者(登記名義人)の住所や氏名が変わった日から数えて2年以内の変更登記が義務付けられます。
土地の所有者と連絡が取れないことを防ぐ目的での施行です。

住所および氏名の変更登記を2年以内に行わなかった際には、5万円の過料が科されることになるのでご注意ください。

 

法務局への情報提供(生年月日など)の義務化

相続の義務化と併せて、新たに取得した不動産の登記申請をする際には、法務局への情報提供(生年月日など)が義務付けられます。
法務局による住所および氏名の変更登記を可能にすることがその理由です。
※土地の所有者が個人の場合には本人の申出や許可が条件

ただし実際に不動産登記簿謄本(登記事項証明書)に記載されるのは、登記名義人の名前と住所のみです。
株式会社などの法人は、会社法人番号などが登記簿謄本(登記事項証明書)に記されます。

 

所有権を放棄した土地を国庫に返還できる

相続で取得した土地の状況によっては、売却を含む活用が難しいケースも想定されます。
仮に相続放棄を希望したとしても、特定の土地だけを放棄することは認められません。
すべての遺産の相続を放棄する必要があるためです。

相続の義務化となる法律の施行後は、預貯金などの相続をしつつ、相続によって得た土地の所有権のみを放棄し、国庫に返還することが可能となります。

所有権放棄の対象となる土地は、次の条件に「該当しない」ものです。

・建物を有する土地
・担保権もしくは、使用や収益につながる権利(借地権など)が設定済みの土地
・通路および他者の使用予定のある土地として政令にて定められた土地が含まれるもの
・土壌汚染対策法第2条第1項にて定められた特定有害物質(法務省令で制定された基準量を超過したヒ素や鉛など)によって汚染済みの土地
・境界が明確でない土地や争議中(所有権や範囲、帰属)の土地
・崖を含む土地で、管理のための費用などが発生するもの
※高さや勾配などは政令で定められた基準を適用
・土地の管理や処分を妨げる樹木や車両、工作物などを有する土地
・土地の管理や処分を妨げる廃棄物などが地下に存在する土地
・土地の管理や処分のために隣接地の所有者などとの争訟が必要と政令で定められた土地

所有権放棄の条件を満たした土地の申請には、申請費用と10年分の管理費用を納める必要があります。

 

相続登記でかかる費用について

相続登記でかかる費用は以下のとおりです

項目 費用
登録免許税 登記する不動産の固定資産税評価額×0.4%
申請書類の取得費用 1,600円~
司法書士報酬 30,000円~10,0000円

 

1.登録免許税

登録免許税は不動産登記をする際に法務局を通して国に納める税金です。
登録免許税は次の数式にて算出します。

登録免許税=登記する不動産の固定資産税評価額×0.4%

固定資産税評価額 登録免許税
1,000万円 40,000円
3,000万円 120,000円
5,000万円 200,000円
1億円 400,000円

 

登録免許税は、法務局や郵便局などで収入印紙を購入して納める形です。

 

2.申請書類の取得費用

相続登記を含む不動産登記申請には、次の書類を取得するための費用が発生します。

必要書類 費用
登記事項証明書 600円/不動産1件につき
戸籍謄本 500円から700円
※自治体ごとに異なります
印鑑登録証明書 500円~
※自治体ごとに異なります

 

この他にも、法務局に書類を郵送する際の郵便費用がかかる場合もあります。

3.司法書士報酬

相続登記などの不動産登記は相続人自身で行うことも可能ですが、司法書士に依頼するケースが一般的です。

土地の固定資産税評価額や登録する不動産の件数にもよりますが、30,000円から100,000円ほどが目安となります。

日本司法書士会連合会が2018年1月に実施したアンケート結果による、司法書士報酬の平均を次の表にまとめてみました。
 

地域 全体の平均値
北海道 60,983円
東北 60,667円
関東 65,800円
中部 63,470円
近畿 78,326円
中国 65,670円
四国 65,578円
九州 62,381円

※土地1筆、建物1棟、固定資産税評価額1,000万円の代理業務
※有効回答数1,098

参考資料
日本司法書士会連合会「司法書士の報酬」
https://www.shiho-shoshi.or.jp/about/remuneration/

 

相続登記の義務化(2024年施行予定)による相続手続きに関する5つの変更点のまとめ

相続登記の義務化の施行後、相続手続きに関係する5つの変更点は以下のとおりです。

・相続登記の期限(3年以内)
→ 10万円以下の過料が科される。

・遺産分割が完了していない際に認められる「相続人申告登記」(仮称)
→ 遺産分割の決定日より3年以内に相続登記を行う必要がある。

・住所および氏名の変更登記の義務化(2年以内)
→ 2年以内に行わなかった際には、5万円の過料が科されることになる。

・法務局への情報提供(生年月日など)の義務化
→ 法務局による住所および氏名の変更登記が可能になる。

・所有権を放棄した土地を国庫に返還できる
→ 所有権放棄の条件を満たした土地の申請には、申請費用と10年分の管理費用を納める必要がある。

 

 

基本的には土地などの不動産を相続した際、所有者移転登記を行えば問題ありません。
今後相続が予定される土地などが存在する方は、可能であれば事前に調査して把握しておくことをおすすめします。

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