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【法律お役立ち情報】第11回 賃貸住宅の原状回復

はじめに

賃貸借契約が終了した際、賃借人は建物を借りる前の状態に戻す「原状回復義務」を負います。しかし、具体的にどこまで回復させる必要があるのかを巡って、トラブルになることも少なくありません。今回は、原状回復の範囲と、関連する諸問題についてご説明します。

原状回復の範囲

(1) 原状回復の基本原則

賃借人の原状回復義務は、完全に元通り(新品同様)の状態に戻すことを意味するわけではありません。
  • 賃借人が負担しないもの:
    • 通常損耗: 建物を普通に使っていて生じる損耗(例:家具の設置による床のへこみ、日光による壁紙の色褪せ)
    • 経年変化: 時間の経過によって自然に生じる品質の低下
  • 賃借人が負担するもの:
    • 賃借人の故意や不注意によって生じさせた損傷(例:壁に物をぶつけてできた穴、タバコの焦げ跡)。

(2) ガイドラインと紛争防止策

「通常損耗」にあたるかどうかの判断は争いになりやすいため、国土交通省の「 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」や、東京都の「賃貸住宅紛争防止条例(東京ルール)」で一定の基準が示されています。 また、紛争防止のためには、あらかじめ契約書に、各部位の原状回復をどちらが負担するかを記載した「修繕分担表」を付けておくことも有効です。

原状回復に関する諸問題

(1) 入居時の損傷について

  • トラブルの原因: 特に中古住宅の場合、退去時に確認された損傷が、入居当初からあったものか否かで争いになることがあります。
  • 防止策: 入居時に、損耗の有無や状況を記載したリストを作成し、各部位の写真を撮影しておくことがトラブル防止に繋がります。
  • 経過年数の考慮: 古い建物で入居当初から多数の傷がある場合、入居後に賃借人が付けた傷の修繕費用を全額負担させるのは不合理です。 そのため、建物や設備の経過年数に応じて、賃借人の負担割合を減少させるという考え方があります。

(2) 通常損耗補修特約

  • 特約の内容: 契約で、「通常損耗」の補修費用を賃借人が負担する旨を定める特約です。
  • 有効性: このような特約は無条件に認められるわけではありません。 裁判所は、賃借人が補修すべき通常損耗の範囲が具体的に明記されていなければ、特約は無効と判断する傾向にあります。
  • ガイドラインの要件: 国土交通省のガイドラインでは、この特約が有効と認められるには、①特約の必要性・合理性があること、②賃借人が義務を負うことを認識していること、③賃借人が義務負担の意思表示をしていること、などが求められており、特約を定める際には注意が必要です。

まとめ

原状回復を巡るトラブルは、通常は話し合いで解決に至りますが、中には不当に支払いを拒否する賃借人もいます。 話し合いがこじれて訴訟になれば、多大な時間と費用がかかります。 賃貸人としては、上記のガイドラインなどを活用し、スムーズな解決を目指しましょう。
■執筆者・プロフィール 戸門 大祐(とかど・だいすけ)戸門法律事務所 代表弁護士
2002年 明治大学法学部卒業
2004年 明治大学大学院 法学研究科修了
2006年 明治大学法科大学院修了
2007年 司法研修所修了(第60期)、弁護士登録(小宮法律事務所)
2014年 戸門法律事務所開設

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