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【法律お役立ち情報】第5回 賃貸借契約の特約について

はじめに

土地や建物の賃貸借契約書を作成する際、将来の紛争を防ぐために様々な「特約」を取り決めることがあります。原則として、当事者双方が合意すれば内容は自由に決められますが、その内容によっては借地借家法などの法律に基づき「無効」とされてしまうリスクもあります。 そこで今回は、実務上、問題となりやすい特約をいくつかご紹介したいと思います。

1. 敷引特約(しきびきとくやく)

敷引特約とは 建物の賃貸借契約が終了し、預かった敷金を返還する際に、あらかじめ取り決めた一定額を差し引く(敷引きする)ことを定めた特約です。 目的と注意点 通常の使用で生じる損耗(通常損耗)や経年変化の補修費用は、原則として賃貸人の負担です 。敷引特約は、これらの費用を賃借人に負担させる趣旨で定められることがあります。 ただし、賃借人が個人(消費者)である場合、差し引く金額が高過ぎると 消費者契約法に違反し、無効となる可能性があります 。金額は、あくまで補修費用として想定される範囲内に留めておくことが重要です。 年数が経つにつれて補修箇所が増えることを考慮し、契約の経過年数に応じて敷引額を徐々に上げていくような取り決めは、合理的と言えるでしょう

2. 賃料の減額を禁止する特約

原則 一度決めた賃料も、その後の固定資産税の増減、土地建物の価格変動、経済事情の変化などによって不相当となった場合は、当事者双方が賃料の改定(増額または減額)を請求できます。 特約の有効性 賃貸人としては「賃料の減額は行わない」旨の特約を入れたい場合があります 。しかし、このような特約は賃借人にとって一方的に不利益な内容であるため、 借地借家法により無効と判断されやすいのが実情です。 ただし、仮に特約が無効だとしても、その特約の存在自体が適正な賃料を算定する際に考慮されることがあるため、全く意味がないとまでは言えません。

3. 残置物の所有権を放棄する特約

目的 賃借人が退去時に私物(残置物)を残したまま連絡が取れなくなってしまうケースに備えるための特約です 。賃貸人が無断で残置物を処分することは法律上認められていません 。そこで、あらかじめ「退去時に残された物品の所有権は放棄する」と定めておくことで、賃貸人が自ら搬出・処分できるようにすることを目的としています。 有効性と注意点 このような特約は基本的に有効です 。 しかし、あくまで賃借人が退去した後の残置物を前提としています 。賃借人がまだ居住している場合には、この特約を根拠に荷物を搬出・処分することはできないと判断されやすいため、注意が必要です。

4. 賃借人の死亡による契約終了の特約

原則 賃借人が死亡した場合、その賃貸借契約は相続人に引き継がれるのが本来の形です。 特約の有効性 賃借人が高齢で、将来的にその子や孫が居住する予定もない場合などに「賃借人の死亡により賃貸借契約は終了する」という特約を定めることが考えられます。 しかし、この特約は相続人の権利を一方的に奪う不利な内容であるため、無効とされる可能性があります 例外:終身建物賃貸借契約 建物の賃貸借に関しては、一定の要件を満たして都道府県の認可を得ることで、「 終身建物賃貸借契約」を締結することが可能です 。この契約は、その名の通り賃借人の死亡時に契約が終了するものです。

終わりに

賃貸借契約の特約には、上記以外にも様々なものがあります 。その有効性については微妙な判断を要するものも少なくありません 。後になって「この特約は無効だった」という事態を避けるためにも、少しでも気になる点があれば、あらかじめ専門家にご相談されることをお勧めいたします。  
■執筆者・プロフィール 戸門 大祐(とかど・だいすけ)戸門法律事務所 代表弁護士
2002年 明治大学法学部卒業
2004年 明治大学大学院 法学研究科修了
2006年 明治大学法科大学院修了
2007年 司法研修所修了(第60期)、弁護士登録(小宮法律事務所)
2014年 戸門法律事務所開設

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